第2章 その場で仇を討つ
金碧輝煌の高級ウェディングドレスショップ。
全身鏡の前で、古川有美子は純白のウェディングドレスに身を包み、まるで古城から歩み出てきた貴族のお姫様のようだった。
Vネックの襟元からは発育途上の柔らかな胸元が少し覗き、わずかに膨らんだ曲線は、ピンク色の水蜜桃のように人を誘う。ウエストを絞ったドレスのデザインは、彼女の華奢で柔らかな腰をより一層引き立てていた。
その魅惑的な姿は、すべての男性を狂わせる魔力を持ちながらも、彼女の顔はとても清純で、瞳は限りなく澄んでいた。
純潔と官能の融合が、古川有美子という存在の中で極限まで表現されていた。
古川有美子が試着室から出てきた瞬間、店内のデザイナーも佐藤家の両親もただ呆然と見つめるばかりだった。
「このドレス、古川さんにとても似合っています。まるで女神のようです」
スタッフは古川有美子に褒め言葉を連ねながら、他に修正点はないか尋ねた。
古川有美子は首を振り、「このままでいいです」と答えた。
どうせ結婚式は彼女が望んだものではなく、塚本家が数億円かけてこのドレスをデザインさせたとしても、古川有美子にとってはただの冷たい数字に過ぎなかった。
古川会長と古川奥さんは深く感動し、娘を見つめる目に潤みが浮かんでいた。
ただ、半日もドレス試着をしているのに新郎が姿を見せないことに、古川奥さんは少し腹を立て、隣にいる塚本お爺さんの関係者に不満げな視線を向けた。
「あなたの塚本社長はどこですの?もう終わりそうなのに、まだ来ないなんて、これでいいと思っているの?」
林アシスタントは困った表情で、どうしていいか分からない様子だった。
古川有美子は急いで母親の手を叩いて宥めた。「お母さん、大丈夫よ。塚本さんはきっと仕事で忙しいのよ。お父さんとお母さんが付き添ってくれただけで十分満足だわ。どう?きれいでしょ?」
彼女はドレス姿を見せながら、母親の注意をそらした。
古川奥さんの表情はやや和らいだものの、まだ困惑と不安が残っていた。「きれいよ。でも本当に塚本郁也と結婚するつもり?塚本お爺さんから何か言われたんじゃないの?」
「もし何かつらいことがあるなら、遠慮なく言いなさい。お父さんもお母さんも、あなたを...」
子を知る者は親なりと言うが、古川奥さんの気遣いに古川有美子は涙があふれそうになり、すべてを打ち明けて両親に自分を守ってもらいたいと思った。
しかし、それはできなかった。両親の心血を一瞬にして無駄にすることはできなかった。
古川有美子は慌てて古川奥さんの言葉を遮った。「お母さん、何を言ってるの。もちろん塚本郁也がイケメンだから一緒になりたいんだよ」
古川奥さんは眉をひそめた。「イケメンだけじゃご飯は食べられないわよ」
古川有美子はすかさず返した。「ブサイクだと食欲がなくなるわ」
古川奥さんは言葉に詰まり、さらに何か言おうとしたとき、古川有美子は強引に話題を変えた。「お母さん、結婚式の時、どんな髪型がいいと思う?」
……
時は瞬く間に過ぎ、あっという間に月末となった。
厳かな教会には花々が咲き誇り、神聖で華麗な雰囲気に包まれていた。客席は満席で、カメラマンはカメラを担いで新婦に向けていた。
一秒、また一秒。
時間は音もなく過ぎていき、ほとんどの人がその場に留まったまま、なかなか進展がなかった。
徐々に、客席から小さな囁き声が聞こえ始めた。
「新郎はどこ?まだ来ないなんて、逃げるつもりじゃないよね?」
「最初から結婚したくなかったって聞いたから、逃げたって不思議じゃないよ」
「シーッ、小さい声で」
古川有美子もこれらの言葉を耳にし、内心喜んでいた。逃げるなら結構、そうすれば塚本お爺さんを正当に拒否して、自由を取り戻せる。
しかし、古川会長と古川奥さんがそう思っていないのは明らかだった。
二人はもともとこの縁談にあまり賛成していなかったが、今や塚本郁也がなかなか現れないことは、古川家の面子を潰すだけでなく、彼らの大切な一人娘をないがしろにすることだった。
忍べるものと忍べざるものがある!
古川会長は眉をひそめて塚本お爺さんを見つめ、強い口調で言った。「塚本お爺さん...」
「すみません、遅れました」
冷たく通る声が古川会長の声を遮った。
全員が一斉に振り向くと、白いスーツに身を包んだ塚本郁也が、いつの間にか教会の入り口に立っていた。
男は背筋を伸ばし、まるで揺るぎない青竹のように真っ直ぐで長身だった。
刀で削ったような鬢、墨で描いたような眉。細長く深い目は、女媧が丹念に彫り上げた芸術品のようだった。高く伸びる鼻筋は、はっきりとした輪郭と相まって見事な調和を見せていた。
古川有美子は呆然とした。彼女も初めて塚本郁也、つまり名目上の夫を見たのだった。
以前、彼がイケメンだと言ったのは嘘だったが、実際本当にかっこよかった!福袋を開けたらレアアイテムが出たようなものだ!
男の美しさは妻の誇り、これは損じゃない。
古川有美子が思考を巡らせていると、不意に男の深く冷たい視線と目が合い、まるで真冬に裸で湖に放り込まれたような、頭から足先まで染み通る冷たさを感じた。
「始めましょう」
彼の口調は冷淡で、言葉は極めて簡潔、かなりいらだっているようだった。
古川有美子は眉を上げた。おや、同病相憐れむとはこのことか。
これなら口数多く話す必要もなく、二人は完全に見せかけだけの偽りの夫婦になれそうだ。
考えるだけでうれしくなる。
古川有美子の気分は一気に明るくなり、声も弾んだ。「はい」
明るく澄んだ声は、甘く、まるで自由に囀る鶯のようだった。
彼と結婚することがそんなに嬉しいのか?まあ、栄華富貴が手に入るんだから、嬉しくないはずがない。
塚本郁也の瞳の色はさらに深まり、無表情で儀式を進めた。
古川有美子はそれに気づくと、自分も顔を引き締め、「私だけが美しく、近づくな」という高慢な態度を装った。
厳かな結婚行進曲のメロディーが空間に流れる中、二人の新郎新婦の顔には喜色が全くなく、互いに冷淡さを競っているようだった。
神父は多くを見てきたとはいえ、彼らのような二人は初めてだったが、それでも本分を忘れず、二人に誓いを立てるよう促した。
「尊敬する新郎、江さん。あなたはこの方を妻とし、貧しい時も豊かな時も、病める時も健やかな時も、決して離れず、死が二人を分かつまで添い遂げることを誓いますか?」
塚本郁也は不機嫌な顔で、長い間を経て、ようやく喉から一つの音節を絞り出した。「ええ」
神父は少し気まずそうに言った。「先ほどの言葉を繰り返していただく必要があります」
しかし、返ってきたのは男の冷たい視線だけで、それは人の血を凍らせるほどだった。
神父は仕方なく古川有美子に同じ質問を向けた。「新婦、古川さん。あなたは...死が二人を分かつまで添い遂げることを誓いますか?」
古川有美子はうなずいた。「1」
神父と塚本郁也が同時に彼女を見つめ、前者は困惑した様子で「塚本さん、その『1』はどういう意味ですか?」と尋ねた。
古川有美子は手を振った。「若者の間での言葉遣いよ。だいたい同じ意味だから、次に進みましょう」
塚本郁也は目を細めた。だいたい同じ意味?よくもまあ平気で嘘をつく。
古川有美子は表情を変えず彼の視線に応え、神父に続けるよう促した。彼女の口調があまりにも断固としていたため、神父も疑いを持たず、結婚式を続行した。「では、新郎新婦は指輪を交換してください」
古川有美子が手を差し出すと、塚本郁也は見向きもせず、結婚指輪を彼女の薬指に押し付けた。
しかし、指輪は一回り小さかった。
古川有美子は反射的に手を引こうとしたが、男に強く引き留められ、ダイヤの指輪を無理やり押し込まれた。
彼女は皮膚が削れたような感覚がし、指の周りが焼けるように痛み、見ると確かに赤くなっていた。
しかし、その元凶は全く悔いる様子もなく、表情は変わらなかった。
古川有美子は一気に怒りがこみ上げ、今度は彼女が塚本郁也にダイヤの指輪をはめる番になると、わざと狙いを外し、掌で男の指先を強く打ち、引く際に長い爪で彼の薬指の肌を引っ掻いた。
男の指には直ちに二筋の鮮明な赤い跡が残り、古川有美子は無邪気に瞬きして「あら、すみません、わざとじゃないんです」と言った。
指先に軽い焼けるような感覚を覚えながら、塚本郁也は奥歯を噛んだ。
ふん、復讐心が強いじゃないか。
















































